内視鏡的スリーブ状胃形成術とは
近年、コロナ禍で日本でもさらに肥満は増加しています。コロナによる死亡者のリスクとしても、肥満は深刻な問題になっています。また、日本人は欧米人と比べ、内臓脂肪型であり、低いBMIでも高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病にかかる可能性が高いです。(WHO基準でも日本人を含めたアジア人はBMIを-2.5した基準にしています) 現在、BMI35以上の人は日本で約50万人、BMI30以上で450万人と推計されているので、BMI27.5以上となるとさらに多いはずです。現在では日本でも約4人に1人がBMI25を超えています。
どのように減量するか
ESGでは約15-20%の体重減少率で薬剤を併用すると手術に匹敵する効果を得ることができます。(※文献参照)
効果としては、近年の大規模な欧米のシステマティックレビュー(エビデンスレベルが最も高い)では約2000人、平均BMI35以上の方を対象で、全体重減少率は14.8-18.6%と報告されています。また長期成績も報告されており、5年の全体重減少率15.9%と減量効果が維持できています。腹腔鏡下スリーブ状胃切除も合併症率は低いですが、内視鏡的スリーブ状胃形成術はさらに低いです。(※下記文献参照)
様々な手段を用いて、なんとか体重を減らそうと頑張って挫折した人も多いと思います。 一般に食事、運動療法の全体重減少率は約5%、薬物治療は5-10%、手術は20-30%と言われています。食事運動療法の最大のメリットはすぐ始めることができ、比較的低コストで行うことができますが、最大のデメリットはリバウンドです。外国の有名な国レベルでの試験では食事運動療法では10-15年の体重減少を診た時にほとんど体重の変化はありませんでした。
最近は薬物治療も成績が良くなっていますが、胃自体が実際小さくなっているわけではありませんので食べようと思えば食べることはできます。なので一定数の方は薬物治療をしても、体重の落ちが悪いか、結果リバウンドしていまいます。そのような方は内視鏡治療、手術をお勧めしています。実際に胃を小さくして、少ない食事量で満腹感を得ることができます。手術は腹腔鏡と言えど一定のリスクはあります。リスクを最小限に抑えたのが内視鏡治療(胃カメラでの治療)です。おなかを切ることはなく、回復も早いです。ESGでは約15-20%の体重減少率で薬剤を併用すると手術に匹敵する効果を得ることができます。
高度肥満の方
2014年からBMI35以上の高度肥満例に対する腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が保険診療として承認されています。しかし、手術が怖い方や忙しい方はESGをお勧めしております。私がESGで治療した方で一番大きい方ですとBMI50を超える方もいらっしゃいます。
BMI27以上BMI35以下の肥満の方
現在の日本ではBMI35以下の糖尿病などの生活習慣病を有する肥満患者の選択肢は少ないのが現状です。重度の生活習慣病があり、BMI32以上の方は保険適応で手術を受けることは可能です。しかし、それ以外の方は現状の日本の医療保険制度では、自分で頑張ってくださいということです。正直、私はこの層の方に一番治療を受けて頂きたいと思っています。
私としては肥満を放置し、後に手術を行うより、比較的低いBMIで早期治療を開始した方がメリットは多いと思っています。糖尿病などの生活習慣病をきちんと治療しない限り、将来待っているのは致死的な心筋梗塞、脳梗塞、透析、失明など考えたくないような病気ばかりです。今後の人生、肥満とは無縁の生活を送って頂きたいです。
内視鏡的スリーブ状胃形成術は、世界では薬物療法と手術の間にある標準治療の一つです。胃カメラを挿入し胃を糸で内側から縫い縮めて約70%胃を小さくする治療です。日本では私を含め、数人しかこの治療を行うことは出来ません。この治療に関してネットで検索しても出てこないなど、情報量が少なく心配される方も多いです。不安なことがあれば外来でお尋ねください。
適応としてはBMI27以上で肥満関連合併症(糖尿病(境界型を含む)、高血圧、脂質異常症、脂肪肝、閉塞性睡眠時無呼吸症候群など)を有する方です。もう一つの適応としては減量はしたいけど手術は怖い方です。※1-4
また、忙しい方、すぐリバウンドしてしまうような方も最適だと私は思っています。この治療は海外では日帰りで行われている治療です。
最後に手術をするのも危険なBMIを50以上の方や既に減量外科手術を受けられてリバウンドした方にも有用だと思っております。
効果としては、近年の海外のデータでは全体重減少率は14.8-18.6%と報告されています。また長期成績も報告されており、5年の全体重減少率15.9%と減量効果が維持できています。腹腔鏡下スリーブ状胃切除も合併症率は低いですが、内視鏡的スリーブ状胃形成術はさらに低いです。※2-4
内視鏡的スリーブ状胃形成術のメリット
- 薬物療法と比べて、摂食制限が出来る → 薬物療法は食べようと思えば食べれる
- 手術に比べて逆流性食道炎や縫合不全などの重篤な合併症が少ない
- 複雑な開腹手術後でも施行可能
- 術後の回復が早いためすぐ職場復帰できる
- 小児肥満にもできる
- 糸を切れば元に戻る
術後フォロー
術後外来は減量、食事の状況を伺うのと指導がメインです。必要時には薬物療法も併用します。
術後1年間は1ヶ月、(必要時3ヶ月)、6ヶ月、12ヶ月に外来受診して頂きます。その後は体重減少などを考慮しながら、半年~1年毎の受診して頂きます。
ご本人のタイミングでご予約下さい。(遠方の方はオンライン診療でも可能です)
また、当院からの電話連絡は行っておりません。
また術後、長期にわたる食事療法・運動療法の継続を行う必要があることを御理解頂く必要があります。
減量外科手術後の食事指導
について
- はじめは、大さじ2~3杯で満足感を得ることができます。その状態を保持するために、腹八分目に食べましょう。
時間をかけて、無理に胃を広げないことが大切です。 - 創の治癒促進、筋力を低下させないために十分なたんぱく質を摂ってください。
- 脱水にならないように十分な水分をとって下さい。体重を減らすためにも十分な水分が必要です。自分で脱水症状(尿の色が濃い、口臭がひどくなる)を認識するようにしてください。
- ゆっくりと食事、水分を摂取してください。過食や通過障害を予防するためにもよく噛んでください。
(20-30回)30分以上かけて食事を摂取してください。 - 食事と飲水を一緒にするのを避けてください。胃の大きさが小さいので、すぐに気分が悪くなってしまったり、吐いてしまいます。少なくとも食後水分を摂取するまで30分はあけてください。
- 飲水するときにストローを使わないでください。ストローを使うと空気を一緒に飲んでしまい、気分が悪くなってしまいます。さらに、十分な食事、水分が摂取できなくなってしまいます。
- 炭酸飲料は飲まないでください。ガスによって気持ち悪くなります。
- もし腹部の張りや胃部不快感がある場合は、すぐに食事、水分摂取をやめてください。
- ビタミン、ミネラル欠乏予防のためにしっかりサプリメントを飲んでください。サプリメントをカフェインを含むコーヒーやお茶などで飲まないでください。
- 高脂肪の食品は吸収されにくく、胸やけや胃部不快感や嘔吐を引き起こすことが多いです。
手術後に健康な体重維持の
ために推奨すること
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毎日脱水予防のため6-8回に分けて十分な水分を摂りましょう。
- 筋肉量を維持するために十分なたんぱく質を摂りましょう。
- 1日に5.6回に分けて食事するようにしましょう。1口を小さくしましょう。少なくとも20-30回よく噛み、約30分かけてゆっくり食べましょう。
- 腹八分目で食事をやめましょう。
- 砂糖を含む甘い飲料、間食はやめましょう。
- 調理法も工夫しましょう。
- ビタミン、ミネラル欠乏予防のためにしっかりサプリメントを飲んでください。サプリメントをカフェインを含むコーヒーやお茶などで飲まないでください。
- 常にバランスのとれた食事を意識しましょう。1つの食品ではなくいろいろな食品を摂取したんぱく質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルをバランス良く摂取しましょう。
- アルコール摂取はやめましょう。アルコールには栄養はなく高カロリーです。減量の妨げになります。
- たくさん運動をしましょう。運動によってカロリーが燃焼され、さらに筋肉量も上がり、リバウンドしにくい体質になります。少なくとも30分、3.4回/週運動するように心がけましょう。慣れてきたら徐々に運動の強度も上げましょう。
9 Golden Rules
- 1日3食(少量)
- 腹8分目で食事をやめる
- 間食をしない
- 良質の固形食を食べる
- よく噛んで、ゆっくり食べる
- 食事中に水分を飲まない
- 食間にたくさん水分をとる
- 甘い飲み物は飲まない
- 運動は1日最低30分行う
治療費用
自費 | |
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内視鏡的スリーブ状胃形成術 | 1,400,000~1,600,000円 |
参考文献
- Abu Dayyeh BK, et al, Endoscopic sleeve gastroplasty: a potential endoscopic alternative to surgical sleeve gastrectomy for treatment of obesity. Gastrointest Endosc. 2013;78(3):530–5.
- Md Asif Jalal, et al, Systematic Review and Meta-Analysis of Endoscopic Sleeve Gastroplasty with Comparison to Laparoscopic Sleeve Gastrectomy. Obes Surg. 2020 Jul;30(7):2754-2762.
- Antonio Afonso de Miranda Neto, et al, Efficacy and Safety of Endoscopic Sleeve Gastroplasty at Mid Term in the Management of Overweight and Obese Patients: a Systematic Review and Meta-Analysis, Obes Surg. 2020 May;30(5):1971-1987.
- Reem Z. Sharaiha, et al, Five-year outcomes of endoscopic sleeve gastroplasty for the treatment of obesity. Clin Gastroenterol Hepatol. 2021 May;19(5):1051-1057.